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021家具職人から世界のピアノメーカー御三家の一つへと成長 - スタインウェイ社【後編】

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アメリカの中~上流社会で起きていた「しずかちゃん現象」

ヨーロッパでは王侯貴族かエリート層にしか、クラシック音楽には縁がありませんでしたが、アメリカではそうとは限りませんでした。アメリカには世界最高クラスの大金持ちのほか、ヨーロッパには比較的、まだ少なかった中産階級という層が数多く暮らし(いわゆるプチブル、プチブルジョワ)、自分の暮らしをリッチに見せるためにクラシックの音楽やピアノなどの楽器を必要とするようになっていたのです。

日本でもそういう時代がありましたよね。たとえば『ドラえもん』の時代ですよ。オリジナルの『ドラえもん』は、昭和40年代後半(1970年代)を舞台にしているそうですが、平均的な家庭として描かれる野比家にはクラシックの楽器を弾く趣味はありません。
その一方、そこそこ以上にリッチな家庭に暮らす源静香は(おそらく親から勧められ)ピアノやヴァイオリンを弾きます。彼女の演奏は酷いのですが、クラシックの楽器をたしなむということ自体がステイタスなわけです。お嬢様の証が、楽器演奏なんですね。それ以降のバブル時代には日本中のあちこちで、ピアノなどの楽器を子どもに習わせる家庭がさらに増えたものです。

Fotolia_1377464_Subscription_Monthly_M.jpgクラシックの楽器をたしなむということ自体がステイタスだった時代

......ちょうどコレと似たような現象が、19世紀半ば以降のアメリカの中~上流社会では起きていたんですね。少しリッチになると、歴史や文化のチカラで自分たちを実物以上に高級に見せたがるのが人間の性(さが)です。歴史や文化のチカラといっても曖昧ですが、それをわかりやすく、端的にまとめて他にプレゼンできるのがブランドの実力だと思います。
響きの良さだけでなく、「音楽の本場」ドイツからアメリカにやってきた「スタインウェイ社のピアノ」という物語も、アメリカ人に効力のあるブランド性になりえたのでしょうね。

また、アメリカではコンサートに行く人数もヨーロッパより多目でした(同じような傾向はイギリスの都市部にもありましたが)。それでも西欧規模基準からすれば、かなり大きな会場にも対応できるだけの強く、大きな音をピアノが奏でられるように、楽器の内部構造を大胆に改造していったのがスタインウェイ社のピアノなのです。

楽器の常識が変わりゆく時代に伸びた技術と売り上げ

具体的にはそれまでのヨーロッパのピアノはギターなどの楽器と同じで、楽器のほぼ全体が木製でした。一方、スタインウェイ社が編み出したのは、金属製のフレーム(枠)をはじめ、部品に金属をどんどん使い、いわばマッチョでゴツく、逞しい外見にふさわしい強靱な音を備えたピアノを作る技術だったのですね。

様々な努力の結果、スタインウェイのピアノはアメリカやヨーロッパで当時、数多く開催された万国博覧会のコンペティションで悲願の優勝を重ね、名実ともにピアノの人気ブランドとしての地位を固めていきます。そして1875年にはイギリスのロンドンに、1880年にはドイツのハンブルクに、アメリカから逆輸入されるようなカタチで、ヨーロッパにもスタインウェイの工場が設立されていくのでした。

一方、前回お話したように、時間をかけて丁寧につくられるベーゼンの製品も、ひ弱なピアノだったわけでは全くないのですよ。19世紀中盤のヨーロッパで最高のピアニストだった「フランツ・リストが弾いても、壊れないピアノはベーゼンだけ」と多いに名声を持っていたのです。

壊れる? なんじゃそりゃ、と思うでしょうが、リストは肉食獣が獲物に向かう時のように、鍵盤に食らい付くようにして激しい演奏を披露するスタイルで有名でした。「リストの演奏は耳で聴くだけでなく、目でも見なくてはならない」と評され、リストがピアノを壊す度に、ファンのご婦人たちが「キャー」と失神......など、X JAPANのYOSHIKIみたいなスタイルで(あの人の場合はピアノを壊すというより、ドラムセットを放り投げてましたけど)音楽の情熱を全身で表現してたんですねぇ。

Fotolia_70576670_Subscription_Monthly_M.jpg激しい演奏スタイルで有名だったリスト

とにかく職人技で時間をかけた分だけ、ウチのピアノは丈夫だし、ピアニストのどんな表現にも、どんなタッチの差にも反応できる......それがベーゼン社のピアノのウリだったのです。しかしその一方で、「弾くのにコツがいる。普通に弾いただけでは、美しくは響かない」という声が聞かれるのも、またベーゼン社のピアノでした。

弾きやすさが際立つ「機能性」のあるスタンウェイ社のピアノ

スタインウェイのピアノを評する時には機能性という言葉が使われ、語られることが多いです。高い音域が輝かしく響かせられるなど、お客ウケする要素を演奏者がピアノから引き出しやすいのだとか。

ちなみに晩年のリストもベーゼンだけでなく、スタインウェイのピアノを(もっぱら)愛用するようになっている点でもわかるとおり、やっぱり「弾きやすさ」ではスタインウェイに勝るピアノはないんでしょうかね。

現在、全世界のピアニストが愛用するピアノの9割以上がスタインウェイのピアノだといわれています。販売戦略の巧みさと弾きやすさの二点。スタインウェイだけは、他のピアノメイカーとは異なり、アメリカが本社で、20世紀中の戦争の被害をほぼ受けなかったことも幸運したのでしょうね。

ブランドの名声を手にしても、経営には山あり谷あり

職人気質をブランド色として固持し続けたベーゼンですが、2008年、日本のピアノブランド・ヤマハ社に買収されてしまいました。ベーゼンというブランドは本質的に変わらないでしょうが、今後、日本のヤマハというブランドに大きな変更があるかもしれないと筆者は思っています。何よりクラシック音楽の世界でステップアップするには、神話的なエピソードが必要ですからね......。

なおスタインウェイの経営も20世紀中盤以降は山あり谷ありで、現在は「スタインウェイ&サンズ」のブランド名は残しつつも、多くのヨーロッパのD.C.ブランドが20世紀末以降、LVMHの傘下に入ったように、アメリカの各種楽器製造会社をまとめた「スタインウェイ・ミュージカル・インスツルメンツ」の一子会社になっています。

参考

ベーゼンドルファー・ジャパン公式サイト:http://boesendorfer.jp/
スタインウェイ・ジャパン株式会社 公式サイト:http://www.steinway.co.jp/
スタインウェイ・ミュージカル・インスツルメンツ 公式サイト(英語):http://www.steinway.com/steinway-musical-instruments/

© 堀江宏樹

 
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著者情報

ホリエヒロキ

堀江宏樹

歴史エッセイスト・作家。1977年生まれ、大阪府出身。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。大学在学中からフリーランスライターとして文筆活動を開始。『仰天! 歴史のウラ雑学 後宮の世界』(竹書房)で作家デビュー。性別を超えた独特の論調で、幅広いファン層をもつ。

最新刊としては、角川文庫版『乙女の日本史 文学編』が2015年7月25日、幻冬舎新書として『三大遊郭 江戸吉原・京都島原・大坂新町』が9月30日に発売。『乙女の真田丸』が10月中に発売(主婦と生活社)。
好評既刊に『乙女の松下村塾読本 吉田松陰の妹・文と塾生たちの物語』(主婦と生活社)、『女子のためのお江戸案内恋とおしゃれと生き方と』(廣済堂出版)など。監修として参加の、音楽家バトルファンタジー漫画『第九のマギア』(メディアファクトリー)の第一巻も発売中。

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