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歴史本『乙女の日本史』に見る書籍制作の裏側とヒット戦略

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002専門的知識も、見せ方=編集次第でエンタメに!

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19世紀フランスの美食研究家、ブリア=サヴァランは「どんなものを食べているか、言ってみたまえ。君がどんな人物かを当てて見せよう」という趣旨の言葉を残しました。ちなみにグルメだったブリア=サヴァランの名前にちなんで後に作られたのが、辛口の洋酒にケーキのスポンジ生地を浸し、生クリームを乗せたスウィーツ「サヴァラン」です。

この名言の「どんなものを食べているか」の部分を「どんな恋をしているか」に置き換えることは、日本史の中でも可能だと思うのですね。

なぜなら「恋は人なり」なのですから。

『乙女の日本史』では、それまで日本史を扱ったコンテンツの中で、さほど重要視されてこなかった側面に大きく言及しました。それはどんな恋愛生活を送っていたか......などなどに始まる、歴史上の有名人物の「私生活」についてです。

世界史に比べ、『乙女の日本史』以前の日本史をめぐるコンテンツの中では、なぜかこの方面の知識は専門書を読みあさって、ようやく断片的に知ることが出来る程度にとどめられていました。それゆえ世界史と比べれば日本史コンテンツは、エンタメ性に乏しいと僕には感じられていました。

「さよなら、おじさん史観」に込められた想い


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そして「恋は人なり」という史観が、支柱のひとつである『乙女の日本史』刊行にあたって、帯などには「さよなら、おじさん史観」という(やや刺激的な)キャッチコピーが与えられました。

祭り上げられた歴史上の聖人君子たちの活躍から、何かを学ぶべきものとするのが、「おじさん史観」の内訳です。「おじさん史観」という言葉自体は、僕と滝乃さんの会話の中で飛び出したものです。日本史の固定ファンにはやはり「おじさん」が当時も、今も多いわけですから、かなりの問題発言ではあったかもしれません(笑)。

多少、保守的な歴史ファンからの反発を感じたこともありますが、旧来の歴史受容を「おじさん史観」呼ばわりすることは日本史の新しい楽しみ方をプレゼンする上で、よかったのだ、と思っています。基本的に『乙女の日本史』の読者層は三十代を中心とする、働く「女子世代」ではあります。しかし、年代でいえば「おじさん」たちからの支持も少なからず得られた......ということも、その後、トークショーなどの現場などで感じることになりました。

「おじさん」を日本史から排除したいのではないんですね(筆者である僕自身が、刊行当時はともかく、現在ではアラフォー世代なんですから)。想定や文体など「作り」は若いけれど、内容や解釈が面白ければ、それで満足してくれる柔軟な顧客層が、年齢・性別にかかわらず、日本史のファンにはいるのです。

otome_rekijopage.jpg日本史の新しい楽しみ方をご提案!
「週刊歴女」というお楽しみコンテンツもターゲットは女子に限ってはいない

マニアックな情報は、見せ方次第!

さて、前回のコラムの中で、歴史コンテンツでは、読者が知っていると思えることが6~7。知らないことが4~3程度。この6:4もしくは7:3の割合こそが読後感を充実させうる黄金比であり、重要ではないか......ということをお話しました。たぶんこれは、歴史コンテンツかどうかにかかわらず、全てのコンテンツにいえることだとは思います。

この「4」ないし「3」に相当するマニアックな情報も、『乙女の日本史』には効果的にうまく入れ込めたと思います。これまではマニアックすぎて、一般的には放置されていたようなデータに、ポジティブな価値を与えることができたのでは......という意味ですね。

専門書にしか記載されていないことってありますよね。現在では「傍若無人な魔王キャラ」として描かれることが増えた信長ですが、たとえば秀吉の正室(正妻)・おねが、夫の女性関係に悩んでいると、彼女を慰めようと長い手紙を送り、「言いたいことを、全部夫に言ってしまってはいけない」などと具体的な夫婦生活のアドバイスまでこなしているわけで、ホントは優しい人でもあったのです(キレたら手が付けられないおっさんだったのは事実でしょうが)。

otome_nene.jpg「ホントは優しい人だった信長は、ねね(おね)に夫婦生活のアドバイスをした」といった
マニアックかつポジティブな情報も多数掲載している

また、1840年、近衛家に仕える村岡局(むらおかのつぼね)という女性が、江戸城の天璋院(篤姫)を訪ねた時、なんと吉原で接待を受けた......とかそういう手合いのエピソードです。角川で文庫化するときも、ゲラに「出典は!?」と校正さんからチェックが入りまくりのマニアな逸話です。

実際のところ、村岡は吉原の遊女たちを前に、大量に飲み食いして見せた「だけ」なんですが、こちらも「女性も楽しんだ吉原」という観点でまとめられれば、吉原=男性だけが行く場所という認識がフツーはありますから、「へぇ、そんなことがあるんだ?」と読者の興味を引けつけうるのです。そういう風に(滝乃さんの手助けを借りつつ)コラム化、出来たことは大きいと思うんです。

歴史的事実に新しい光を当てて見せるテクニック

この手の編集とは、「価値をデザインするチカラ」といえます。歴史のひとつひとつの出来事は既成事実にすぎず、それはすでに起こったことで、変えようがありません。ビジネスは価値の創造が大事とかなんとかいいますが、歴史コンテンツづくりではそれがそもそもできないわけです。

しかし、ものごとも考え方次第です。今回、お話したように、歴史的事実を、当時の文化・風習を理解しようと試みた上で、現代的な視点で価値を与える......つまり、新しい光を当てて見せることはできる。そしてそれこそが歴史コンテンツづくりに、もっとも大事なことだと僕は考えています。どうやってしても「歴史とは、現在と過去の対話(イギリスの歴史学者 E・H・カーの言葉)」である以上のことはできないのですから。

さらに、コンテンツの価値を高めてくださる方々がいます。作品は作者と編集者の手だけで広く認知されることは不可能です。コンビニなどでも本が置かれる時代となりましたが、書店ならではの販売方法に助けていただくことは、多々あります。

新宿紀伊國屋本店の担当者の方には単行本の時点からお世話になっていますが、『乙女の日本史』文庫でも、大型POP付きのワゴンでの販売など、目立つ「仕掛け(販売の工夫)」が大きな効果を生んでいるようです。これらの点については、今後、書籍プロモーションについて語る時に詳しくお話してみますね。それではまた来週。

© 堀江宏樹

 
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著者情報

ホリエヒロキ

堀江宏樹

歴史エッセイスト・作家。1977年生まれ、大阪府出身。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。大学在学中からフリーランスライターとして文筆活動を開始。『仰天! 歴史のウラ雑学 後宮の世界』(竹書房)で作家デビュー。性別を超えた独特の論調で、幅広いファン層をもつ。

最新刊としては、角川文庫版『乙女の日本史 文学編』が2015年7月25日、幻冬舎新書として『三大遊郭 江戸吉原・京都島原・大坂新町』が9月30日に発売。『乙女の真田丸』が10月中に発売(主婦と生活社)。
好評既刊に『乙女の松下村塾読本 吉田松陰の妹・文と塾生たちの物語』(主婦と生活社)、『女子のためのお江戸案内恋とおしゃれと生き方と』(廣済堂出版)など。監修として参加の、音楽家バトルファンタジー漫画『第九のマギア』(メディアファクトリー)の第一巻も発売中。

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堀江宏樹

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